2021.07.24
立体感アップ!光と影の付け方
イラストにおいて立体感を演出する「光と影」
今回の講座では、厚塗りでの光と影の付け方をご紹介していきます。
基本的な明暗や光源の考え方、コツなどを作例と共にお見せしていますので、是非参考にしてみて下さい。
Index
-明暗の基本-
「明暗」は立体感を表現する為の重要な要素。
厚塗りでは複雑な色や光と影の表現に意識を向けてしまいがちですが、まずはその光と影の表現を構成するものは何かをご紹介します。
1. 明部・・・光の当たる部分。
2. 暗部・・・光の当たらない陰になる部分。
3. ハイライト・・・最も明るい部分。
4. 影(シャドウ)・・・物体の落とす影。
いわゆるアニメ塗りなどの絵柄では、この4つの明暗を使い立体感を表現する場合が多いです。厚塗りになると更に細かいニュアンスが追加され、次のような要素が追加されます。
5. 明暗境界線・・・明部と暗部の境界線となる部分。
6. コアシャドウ・・・明部と暗部の境界に発生する最も暗い部分。
7. 反射光・・・地面や周りの物の反射を受けて明るくなる部分。
この3つは立体感を表現する上でとても大事な要素です。
厚塗りでは特に「明暗境界線」の処理が大切になります。
-光源-
「光源」とはその名の通り光を発するものの事。
それがどの位置・角度から対象を照らすかによって絵の雰囲気は左右されます。
厚塗りに限らず、光源は光と影を考える上で最も大切な要素です。
①光源の向き
光と影のつき方は光源が「どこにあるか」で大きく変化します。
光源を考える時は、まず光源がどの位置/角度にあるのかを考えてみましょう。
更に、光源の位置・角度によっては光と影のつき方はだけでなく、キャラクターの心情やシチュエーションを演出する事ができます。
例えば光源が真上にあるキャラクターは「ミステリアス」に、真下に光源があるキャラクターは「不気味」な雰囲気になります。
光源の位置に迷った時は与えたい印象によってどこから光を当てるかを考えてみましょう。
②光源の距離によるコントラスト
次に光源がどのくらい離れた所に設置されているかを考えます。
光源から近い距離にあるものほど、明暗のコントラストは強くなります。
強い光が近距離で当たる為、明暗の境界線がくっきりして「力強い」印象を与えます。
逆に光源から遠い距離にあるものほど、明暗のコントラストは弱くなります。
届く光が弱いと明暗の境界線が曖昧になり、全体的に「ぼんやり」とした印象を与えます。
③光源の色による変化
また、何が光源になっているかによって光と影の色、そして全体の色味が変化します。
向かって左上から「太陽」「月」「ろうそく」「水色とピンクの照明」「斜光」「木漏れ日」(「斜光」と「木漏れ日」は光が障害物に遮られているだけで、光源は太陽です。)
これに背景や周りの小物からの反射光などが加わり、より複雑な表現が可能になります。
このように、イラストのムードは「何に」「どこから」照らされるかで左右されます。
これを意識するだけでキャラクターやそのシーンを何倍もドラマチックに演出できるようになるのです。
-光と影の付け方-
ここからは光と影の付け方の大まかな流れをお見せしたいと思います。
今回の講座ではアニメ塗りに近いカラーラフを作成してから厚塗りをする方法をキャラクター→ 小物 → 背景の順にご紹介し、1枚のイラストを完成させていきます。
①カラーラフ
まずはカラーラフを描いていきます。
キャンバスサイズは3197 x 4000px。キャンバスが小さいと細かい部分が塗れなくなってしまう為、厚塗りでは最低2000pxのキャンバス設定がオススメです。
今回のテーマは「庭園にお茶を運ぶ召使い」です。
①あたり→②下書きをしました。
今回は②の下書きをそのまま線画として扱います。
【下塗り】
パーツごとに下塗りまでを済ませました。
このようなキャラクターや物が本来持つ色を「固有色」と言います。
固有色を選ぶ時のコツは
・彩度を高くしすぎない
・真っ白/真っ黒は使わない
画像の赤丸で囲まれたあたりの色をカラーサークルから選びます。
絵によっては彩度の高い鮮やかな色を使った方がいい場合もありますが、今回は優しい雰囲気の絵にしたいので、比較的彩度の落ち着いた色を選びました。
また、色と線を馴染ませる為に、この時点で下書きレイヤーの不透明度を50%程に下げておきます。
②キャラクターの影入れ
下塗りができたら次はキャラクターに影を入れていきます。
今回は二種類の影の入れ方をご紹介します。
【乗算での影入れ】
乗算レイヤーを使い影を付ける方法です。
左が乗算適用後、右が乗算レイヤーを通常レイヤー(不透明度100%)に戻した状態です。
肌色には少し紫がかった肌色を、髪の毛や服には薄い紫色を使っています。
この方法では、固有色に合わせて影色を一つ一つ選ぶという手間が省け、全体的に統一感が出せるのがメリット。どんな影色を選んだらいいかわからないという方はこちらから始めてみるといいかもしれません。
【色相での影入れ】
通常レイヤーのみを使い「色相(カラーサークル)」をズラして影をつける方法です。
髪の毛の影色も服の影色も、どちらも固有色から色相をズラしたところから選んでいるのがわかるかと思います。
色を馴染ませる為にはスポイトで周囲の色を拾い、混色を行います。
色相をずらしながら自分で色を選ぶメリットは、乗算と違い自由に色をコントロールでき、混色を楽しめるという点です。
【注意点】
▼パッとしない影色
画像は影色の良い例と悪い例の塗り方になります。
二つの何が違うかわかるでしょうか?
答えは「影色の選び方」です。
悪い例では色相ではなく「明度」のみをズラして影色を選んでしまっています。
それによりどこかパッとしない印象になっているのです。
反対に、良い例では色相をズラした上で明度を少し下げた色を選んでいます。
影色の「なんだかパッとしない」を防ぐ為に意識してみましょう。
▼光源の向き
また、「影をどこに入れたらいいか分からない」という方は、どこから光源が当たっているかをもう一度確認してみてください。
今回の絵であれば、光源である太陽はキャラクターの前方右上あたりから当たっています。
黄色で塗っている部分は光の当たる面(明部)、紫で塗っている部分は影の落ちる面(暗部)、です。
キャラクターの影付けは服のシワなどを意識してしまい影を複雑化させがちですが、図のようにキャラクターの体を一度簡略化してみてください。キャラクターをシンプルな箱や筒などの「面」で捉え、どこに影が落ちるかざっくりと把握しましょう。
ここからさらに服のシワや細かな凹凸を表現するため影を複雑化させていきます。
③色を足す
この工程は光と影、そして立体感を作る上で重要なステップです。
【色を足す】
新規レイヤーを追加し、影をつけた上から更に細かい影を足したり色を追加します。
①髪の毛に空の色を薄く入れ、空気感を足しました。
②・③暗部に薄紫色を、明暗境界線に彩度の高い赤〜オレンジ系の色を入れました。
特に②と③の工程は光の表現において重要なポイント。
暗部に寒色を混ぜ、明暗境界線に彩度の高い暖色を入れることで、立体感を表現します。
【オーバーレイ+加算】
光を強調する為、ここでオーバーレイや加算レイヤーを使用します。
左の画像はオーバーレイを通常モード(100%)に戻した状態。
右の画像は加算レイヤーを通常モード(100%)に戻した状態です。
主に明部にオレンジ色や赤色といった暖色をのせていきます。
左は【色を足す】まで済ませたもの、右はオーバーレイなどを適用したものです。
オーバーレイは43%、加算は19%で適用しています。
これで色味が整えられ、光が当たっていると感じられるような色が作れました。
また、少し違和感があったので召使いのベストは途中で固有色を変更しました。
途中で色を変えたくなったら「色相・彩度・明度」で色を調整することができます。
【光と影を表現する上での注意点】
▼光らせすぎない
綺麗な光や色味を意識するがあまり、オーバーレイなどのかけすぎで起こるNG例です。
オーバーレイは画面の彩度を高める効果がありますので、確かに色鮮やかにはなりますが、それが強すぎると色が飛んでしまう原因にもなります。
また、今回の絵では「昼間の太陽光」を光源としていますのでこの光は不自然です。
夕焼けの太陽や逆光、または強い照明などを浴びない限りは、オーバーレイや加算はひとまず控えめにしておきましょう。
▼濃すぎる影は悪目立ちする
厚塗りは陰影と立体感!を意識しすぎるがあまり起こってしまうNG例です。
立体感は出ますが、影が濃すぎると返ってその部分が悪目立ちしてしまいます。
加えて、塗り進めていくうちに周りの色までどんどん濃くなったり、部分的にコントラストが効きすぎたりと、コントロールが難しくなってしまうのです。
上記はどちらもよく見かけるNG例です。
「足りないな」と思えば後から足すことはできますが、「強すぎる」と思った時には修正が難しいといった場合が多いので注意しておきましょう。
④顔
ここからはレイヤーを統合し、パーツごとに塗り進めていきます。
レイヤーは「髪の毛」や「服」などパーツごとに分けておくと修正が楽になります。
また、赤色の印が付いているレイヤーは下書きレイヤー(線画)です。
パーツの分だけ複製し、「オーバーレイモード」+「クリッピングマスク」状態にする事で線と色が馴染みやすくなり、色塗りの邪魔になりません。
準備ができたら、光源を意識しながら色塗りを進めていきます。
1. ざっくりとパーツのシルエットを整えるように塗ります。
2. 髪の分け目や束、目などの細部を徐々に描き込んでいきます。
3. 輪郭整えながら更に描き込みます。
顔の影付けは「前髪から落ちる影」と「髪の束が重なって生まれる影」をハッキリと描くことを意識しましょう。
⑤服
他のパーツも同じ流れで塗ります。
服の塗りでは滑らかな影と輪郭のハッキリした影のメリハリを意識しましょう。
■髪の毛や襟、ボタンによって落ちる影はハッキリさせる。
■しわによって生まれる影は滑らかな影とハッキリした影がある。
⑥小物&背景
【ティーセット】
ティーセットのような陶器は滑らかな影を意識しましょう。
■明暗境界線に暖色を入れ立体感を出す。
■暗部に細かいハイライトを少し足すことで艶が生まれる。
【柵】
柵もティーセットと同じ要領で塗っていきます。
■光の当たる面と当たらない面を意識し、ハッキリ影をつける。
【薔薇】
薔薇と葉っぱは影に光を描き足すようなイメージで描いていきます。
1. 光源を意識しながらざっくりと影を乗せます。
2. 更に暗い影を加え、光の当たる部分の葉っぱを徐々に描き込みます。
3. 花びらや細かい葉っぱの描き込みを続けます。
【背景】
最後に背景を描きたします。
まずざっくりとシルエットを描きたし、綺麗に形を整えます。
空には雲を、召使いの後ろにはバラ園らしさを足す為に建物を追加しました。
⑦仕上げ
最後に仕上げを行います。
この仕上げで最終的な「光と影」の表現を決定します。
【乗算で影を強調する】
カラーラフで行ったように「乗算」を使用します。
①・・・乗算レイヤーを通常モード(不透明度100%)にした状態。
②・・・乗算を20〜40%程度で適用した状態。
影の部分に更に影を追加する事で立体感を強調させます。
ただし、既に濃い影がある部分は避ける、又は控えめにするようにしましょう。
【オーバーレイ&加算で光を強調する】
次に「オーバーレイ」や「加算」を使用し光を強調させます。
光の当たる面にオレンジや赤といった暖色を乗せていきます。
①・・・オーバーレイを通常モード(不透明度100%)に戻した状態。
②・・・オーバーレイを20〜30%程度で適用した状態。
③・・・加算を通常モード(不透明度100%)に戻した状態。
④・・・加算を20〜30%程度で適用した状態。
【比較】
①・・・仕上げ前
②・・・仕上げ後
光と影を強調する事でコントラストがより鮮明になり、どこか暖かさを感じるようなイラストに仕上がりました。
ただし、仕上げはやり過ぎてしまうと「光りすぎ」「影が濃すぎる」といった原因になってしまいますので、加減には注意するようにしましょう。
気になる箇所を修正すれば完成です!
いかがでしたでしょうか?
厚塗りでの光と影の付け方は「光源」と「明暗/コントラスト」の意識が非常に大切です。
光と影を表現する楽しさが少しでも伝われば嬉しいです。
著・絵:星灯れぬ
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クリエイターランク特典
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「イラストお仕事紹介」作品
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「星灯れぬ」
ART street
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